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    帝王切開出産で「私は情けない母親」と罪悪感…その心の傷とは?

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    出産の経験が、女性の心に深い傷を残すことがあります。陣痛に耐えられず、急きょ帝王切開に切り替えた女性が、「私は出産から逃げた情けない母親」と打ち明ける投稿を、読売新聞の掲示板サイト「発言小町」に寄せました。無事生まれたのに、新生児室にいる我が子を見て罪悪感を覚えたり、産院の廊下でほかの産婦さんとすれ違うだけで泣きたくなってしまったりするそう。なぜ、そこまで思いつめてしまうのでしょうか。専門家に聞いてみました。

    取り乱して、「切って、切って」と懇願

    写真はイメージです
    トピ主の「情けない母親」さんは、初めての出産で、午後7時から8時間にわたってつらい陣痛を経験しました。

    明け方になっても子宮口が4センチ程度しか開いていないことがわかると、「この先もっと痛くなるし、間隔も短くなる……」と思って取り乱してしまい、ナースコールを何度も押しては、「切って、切って」と帝王切開を懇願。

    付き添っていた助産師さんからは「正常なお産で進んでいるのにもったいない」と言われましたが、そんな言葉を聞き入れる余裕はなく、結局、帝王切開に切り替えてもらい、無事に赤ちゃんが生まれたそうです。

    ところが、産後も心は晴れやかにはなりません。

    「助産師さんたちに『我慢できなかった?』と聞かれるたびに、出産から逃げたことにすごく罪悪感を覚えます。廊下ですれ違う経産婦さんたちを見るとすごく誇らしげで……今から出産する人を見ても罪悪感を覚え、涙してしまいます。新生児室にいる我が子を見ると、情けない母親だと言われているような気がします。皆さん、頑張って自然分娩ぶんべんで産むのに……」とつづるトピ主さん。夫は「いつまでもうじうじするな」と言うそうですが、「なかなか前向きになれなくて。皆さんのアドバイスをお聞きしたいです」と発言小町で意見を求めました。

    罪悪感・人と比べて涙

    この投稿には、220件余りの反響(レス)がありました。同じような経験をしたという女性たちの声が目立ちます。

    「4年前、長女のお産のときに痛みに耐えられなくて、無痛分娩に切り替えてもらいました。無事産まれてホッとしたけど、なんでみんなが乗り越えてきたお産の痛みに耐えられなかったんだろうって、情けなさと罪悪感でいっぱいでした。今でも心にひっかかっています」と書いたのは、「ももんが」さん。

    「私も同じように産後くよくよしていました」とコメントしたのは、「ぺい」さんです。やはり、子宮口が6センチぐらいまで開いたものの、そこからお産が進まなくなり、翌日、帝王切開に切り替えました。コロナ禍で家族の立ち会いがなかったため、出産当日の夜に家族に電話したときは、「頑張れなかった、ごめん」と泣いてしまい、子供に対しても「こんなに情けない母親でごめんと、十字架を背負った気分」だったそうです。ただ、出産から9か月たった今は、そんな罪悪感はすっかり忘却の彼方へ。「このトピを見て当時を思い出すまでは、完全に忘れていました。時間が解決してくれますよ」とトピ主さんを励まします。

    1歳の男児がいる「kii」さんも、帝王切開に切り替えて出産した一人。「産まれてすぐは、自然分娩で産んだ方たちがすごく尊く見えていました。帝王切開で産まれたときに、真っ先に出た言葉が『ごめんね』でした」と振り返ります。でも、母親から「無事に赤ちゃんが生まれることが何より大事。帝王切開になったと聞いて、私は安心したよ」と言われて、救われた気分になったそうです。

    「にょろにょろ」さんの場合も、陣痛の痛みに耐えられず、手をあげて「切ってください!」と言って、帝王切開にしてもらったそうです。「母子手帳には、帝王切開の理由に『頭なんとか不適合』みたいな理由が書かれていたので、それなりに理由を考えてくれたんだと思います。理由が『痛みに耐えられず』では帝王切開は認められませんものね」と書き込みました。

    増加する帝王切開、4人に1人が出産

    出産時に受けた母親たちの心の傷をどう考えればいいのでしょうか。産後の心のケアに詳しい東京大学大学院教授の春名めぐみさんに聞きました。

    「帝王切開になった場合、それまで思い描いていたような出産ではなかったことから、挫折感やネガティブな気持ちを抱きやすくなり、周りの人が思っている以上に、心が傷ついてしまうことがあります」と春名さんは話します。

    最近は、高齢出産の増加に伴って、帝王切開も増加傾向です。厚生労働省の「医療施設調査・病院報告の概況」によれば、分娩件数に占める帝王切開の割合は年々増えており、2014年には一般病院で24.8%になっています。一般病院では、約4人に1人が帝王切開で出産していることになります。帝王切開は、多胎妊娠などでリスクの高い産婦に対してあらかじめ計画して行う「予定帝王切開」と、出産中のトラブルで自然分娩から切り替える「緊急帝王切開」の二つに分かれ、どちらも医師の判断によって行われます。

    「この投稿を寄せた方も、分娩の進行が停滞するなど、何らかの医学的な適応があったはずです。医療者はその時々の判断で、なるべく侵襲の少ない(害の少ない)方法を選んでいきます。ご自分で『切ってください』とお願いしたから実現したのではなく、医学的な判断があったから実現したこと。そこはポイントとして押さえてほしいです。ただ、急な変化だけに、医療者側の説明が不十分だったり、女性のほうも自分で受け止めきれなかったりすると、お産について、後悔や罪悪感、不全感など、もやもやした気持ちを抱いてしまうことはあるかもしれません」と話します。

    必要なのは、自分自身へのいたわりの言葉

    春名さんによると、出産で起こったことについて産後、心にひっかかりを感じたときは、まず、それを否定するのではなく、そういう気持ちも自分の中にあるということを認めること。そして、ゆっくりと深呼吸をして、今のこの瞬間に目を向けて、その上で「私はよく頑張っている」「順調に回復している。すごいことだなあ」などと、自分自身に対していたわりの言葉をかけてみるといいそうです。

    「お産は十人十色です。産婦さん自身が恥じたり、悪いと思ったりする必要はまったくないのですが、そういう気持ちに追い込まれてしまうこともあります。一人で背負い込むのではなく、いろいろな人にサポートを求めてみましょう。ネガティブになりそうなときは、期待しすぎず、でもあきらめずに周囲にヘルプを求めたり、話を聞いてもらったりするといいでしょう。今現在の自分を大切にしてみることです」と強調します。

    発言小町では、「お子さんと幸せに」さんからトピ主さんにこんなアドバイスも。「気にしないコツはね、堂々としていることです。私は、帝王切開も完ミ(完全ミルクの育児)も恥じたことがありません。だから、あれこれうるさいこと言われたこともありません。言われそうになっても、『それが何か?』という態度なので、相手も途中で黙って、どっか行っちゃいます」

    人と比べる前に、深呼吸をして堂々と。発言小町に寄せられた多くのアドバイスにあるように、出産の形などにこだわらず、一人の人間をこの世に生み出すという大事業をした自分をぜひいたわってあげたいものです。(読売新聞メディア局 永原香代子)

    【紹介したトピ】
    出産から逃げた情けない母親