夏休みの宿題でよく出される「朝顔の観察日記」。虫嫌い・ガーデニング嫌いのお母さんたちにとっては、試練であり、ボヤキの対象にもなっているようです。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、学校から朝顔を持ち帰ってきた子どもの話が寄せられています。そもそも、なぜ朝顔が学校の教材なのでしょうか。教育評論家の親野智可等さんに聞いてみました。
「このまま枯れてくれたら…」のはずが
写真はイメージです「朝顔を捨てたいです」のタイトルで投稿してきたのは、小学1年生の男の子を持つトピ主「よるがお」さん。夏休みを前にしたある日、息子が学校から朝顔を1株、ビニール袋に根っこ
剥き出しで持って帰ってきたそうです。
マンション住まいで小バエ1匹でも殺虫剤騒ぎをしてしまうほど虫嫌いのトピ主さん。爪の中に土が入ることやベランダを汚してしまうことなどが気になって、「ガーデニングなど大嫌い」と言い、最初の数日間は、朝顔をビニール袋に入れたまま「このまま枯れてくれたら処分できる」とばかり、ベランダで放置していました。
ところが、子どもに「水やりがしてみたい」と言われ、近所の公園に行って、少しだけ土を拝借。牛乳パックに植え替え、水やりをしたところ、朝顔は息を吹き返し、ぐんぐん伸びてきたそう。猛暑続きで、朝顔に元気がなくなったので、100円ショップで植木鉢、土、肥料、支柱などを2000円分、買い求めて本格的に世話を始めました。
「私が毎日水やりし、花も咲きました。息子は一瞬喜びましたが、まぁそれで終わりです。あとはすっかり花のことなんて忘れて遊んでいます」「(いまは)葉についていた虫が部屋を飛び回っていて最悪の気分です。朝顔っていつになれば終わるんでしょうか? でも、買った土や肥料はまだまだ残っているし、お金をかけたのでそのまま捨てたくありません。きっと朝顔が終わったあとは何か植えることになると思います。今から憂鬱です……」と心の中のモヤモヤを発言小町につづりました。
この投稿には、約40件の反響(レス)がありました。
子どもが持ち帰った夏休みの教材で、親が苦労したという体験談が目立ちます。
秋以降も使うので「枯らすわけにはいかない」
「私らの子(今、大学生)の小学生頃は、学校によっては茎を乾かして取っておいて冬にリースを作るという課題があって、お母さん方の『めんどくせー!』との
怨嗟の声がありました」(「ミミック」さん)
写真はイメージです
「(朝顔は)夏休み中は朝夕に水やりをして観察日記(絵と写真)の宿題が出たほか、9月には育て上げた鉢植えを学校にまた持って行き、授業で押し花か絞り染めをして、さらにクリスマスリースを作った記憶があります。そういう事情で、夏休みに枯らすわけにはいかず……。親や家庭の負担が大きい教材指定はやめてくれと言いたいです」(「ワーママ」さん)
「(うちでは)朝顔をなんとか乗りきったと思いましたら、2年生ではキュウリを、3年生ではホウセンカを持ち帰ってきました。理科の育成シリーズ恐るべし」(「まお」さん)
「娘の学校(当時住んでいたのは神奈川県)では1年生で朝顔を、2年生で野菜(ピーマン、ミニトマト、ナスなどから自分で選ぶ)、3年生ではなんと蚕(カイコ)を育てるでした! カイコって桑の葉をものすごく食べるんです。だからカイコの時期はそこら辺を3年生の子どもたちが桑の葉を求めて常にウロウロしてまして、近隣の桑の木はまるハゲに。ママたちのネットワークでも、あそこに桑の木があるよ!などと情報が飛び交ってました。しかもカイコが繭になったら、蛾に羽化させるもよし、繭のまま中で死なせるなら夏休みの間は冷凍庫で保管してくださいと言われ、今思い出しても鳥肌が立ちそうです」(「ビスケのママ」さん)
虫が苦手な親にとっては、想像以上に振り回される現実もありそうです。
朝顔を育てる授業の狙いは?
でも、そもそも小学1年生の教材はなぜ朝顔なんでしょうか。教育評論家の親野智可等さんは「簡単に言えば、学習指導要領で定められているから、なんですよ」と話します。学習指導要領には、「低学年の児童でも栽培が容易なもの、植物の成長の様子や特徴が捉えやすいもの」と書かれており、朝顔はタネの発芽率が高く、花も次々咲くなど変化を実感しやすい植物のため、多くの学校で教材として取り入れられているそうです。
1992年には、小学1、2年生を対象に生活科が授業として全面実施されるようになりました。「知識偏重教育への反省から、子どもたちに本物の自然を体験させようというのが、生活科なんです。朝顔を育てることで、日々の変化を観察させます。そこで出てきた不思議だなあという気持ちが、科学的なものの見方、芸術的な創造力など、すべての勉強の土台になるという考え方ですね。中には、苦手という親御さんもいるかとは思いますが、お子さんを上手にサポートしてもらえればと私は思います」と親野さんは提案します。
具体的には、水やりをサボりがちな子どもを叱るだけでなく、1日に2~3分でもいいから、子どもと一緒になって朝顔の成長ぶりを観察する時間を持つ。花芽のつき方、ツルの伸び方など、気づいたことを言葉に出してみる。「親子で一緒になって楽しく話していけば、お子さんに豊かな感性が育ってくると思います」と強調します。
中には、こんなレスもありました。
「うちの子は今、高校3年生です。小学1年の時に学校から持ち帰ってきた朝顔が、今年も花を咲かせています。10年以上です。マンションのベランダのプランターです。私は不精者なので、基本ほったらかしで水やりくらいしかしないのですが、毎年、落としタネで芽が出てきます。朝顔っておそろしいくらい生命力が強いです。タネがいっぱいできると思いますが、そのタネをしっかりツルから外しておかないと、来年か再来年か、え、こんなところから?とまた生えてくるでしょう」(「オシロイバナ」さん)
子どもの成長に合わせて10年以上も楽しめるなんて、すごいことですね。
トピ主さんの元来の虫嫌い、ガーデニング嫌いが、子どもの教材持ち帰りがきっかけで、苦手克服となるかどうかは、まだわかりません。でも、生き物や自然とふれあう機会が少なくなった今だからこそ、なんだかんだ言いながらも世話をしてしまうトピ主さんの優しい行動に、ほっこりとした気持ちになった人は多いのではないでしょうか。
(読売新聞メディア局 永原香代子)
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