古い小さなアパートの三階の共有廊下は風通しが悪く、隣の部屋のおばちゃんの香水のニオイが染み込んでいて、廊下をゆっくり通ると目がチクチクと痛みはじめるので、下の階で薄目を開け鼻を摘まみ息を止めて一気に自分の部屋に飛び込むようにしているのですが、その日は鍵穴にうまいこと鍵が入らずカチャカチャやっているうちに、息が続かなくなりとうとうプハーーとやってしまい、するとやっぱり目がしみるので、上を向いて、ああああ、と涙を流していたら、突然、隣の部屋の扉が開き、赤い服を着たおばちゃんが中から現れ、僕の肩をポンと叩き、尖ったヒールの音を立てながら階段を下りて行くのでした。
僕もしかして、失恋とかして部屋の前で泣いている、そんなふうに勘違いされた?
ただ、すっごく優しいポンでした。
失恋したわけではないけれど、これまでにいろいろあったので、不覚にもホントに泣きそうになってしまい、ああこの香水いい匂い、と感じるのでした。
香水おばちゃんに、ありがとう、と言いたい、手紙を書きたい、甘いお菓子を贈りたい、いろいろ考えた結果、そのどれもが唐突なことのように思え、そうだ、トピなら、と思い立ち、ここに。
香水おばちゃん、ありがとう。
みんなも誰かへ、どうですか。
ユーザーID:6280052660