朝、風呂から出たら、まず濡れた髪を乾かします。
乾かしながら、整えます。面倒がらず。諦めず。丹念に。
やがて、唐突に、ここ！ という瞬間が鏡の中に立ち現れます。
そこへ、ハードスプレーを噴射！
でも待って。噴射の力が強すぎると、髪のカタチが乱れます。
最初は、頭髪のあちこちに、短い噴射を断続的に繰り返し、時間をかけて丁寧に仕上げます。

そうして、簡単な朝食を済ませ、歯を磨き、ベッドルームの妻に声を掛けます。
ベッドの上で上体を起こし、少し恥ずかしそうに微笑む、私の美しい妻。
私は、妻に顔を寄せます。妻は私の首に腕を巻きつけます。
私は妻にキスをして部屋を出ます。会社へ出かけるために。

というのが、私の朝の日常です。

ところがその日は、朝、ドライヤーがいきなり故障。
これでは髪の毛は濡れたまま。したがって、整えられず固められず。
エアコンの風も、扇風機の風も、ドライヤーの代わを果たせず。役に立ちません。

朝食をひとりで取りながら、温かいコーヒーを飲みながら、時間と共に私の髪は自然乾燥。
癖毛なので、短く丸まる毛。
そろそろ、家を出る時間です。しかし、鏡の前に立てません。見る勇気が湧きません。

それでも、ベッドルームの扉を押し開き、おずおずと、妻に声を掛けます。
ゆっくりと目を覚まし、いつものように、はにかむ妻。
この日も、やはり妻は美しく、私は、キスをしようと妻に顔を近づけます。
ところが、私の顔をまじまじと見据え、するりと身を翻すと、厭、と私の唇を拒む妻。

今朝のあなたは、へんな顔…。前髪が、まるで、まるで… と。

その夜、会社帰りにドライヤーをふたつ購入。ひとつは買い置きに。
もう二度とこのような前髪にはなるまいと己を戒めました。

以上、ドライヤーが壊れたら、妻にキスを拒まれた、というお話でした。
皆さんのところでは、家電が壊れたら、何が起きましたか。