出会い頭に渋谷の本屋で年配の女性と目が合いました。
ごく自然にお互いニッコリ。軽く会釈も。
私は書棚に視線を戻します。そこへ近づいて来るその女性。
「お仕事中にごめんなさいね。わたくし本を探しているの」
やたらに物腰の柔らかい人です。
私は思わず、はい、と。
「お仕事中」という言葉が少し気になりはしたけれど…
「あのね、これなのよ」女性は四つに折られたメモの紙を開きます。
中を覗き込むと、そこには『進撃の巨人 3、4巻』とあります。
なるほど。孫にねだられたのでしょう。
「コミックならこっちです」
私はコミックのフロアへ女性を案内し『進撃の巨人』を手渡しました。
3巻と4巻。二冊。
「ああ、本当。これだわこれだわ。ありがとう」
私がレジへ女性を連れて行くと、たいそう恐縮する書店員さん。
その様子を眺めていた女性が困惑したようにこう言います。
「この方、お店のお客様だったのかしら?」
「気にしないでください」微笑む私。
ところが女性は私のことなどまるで無視。
レジカウンターの上にさっき私が手渡したコミックをトンと置きます。
「これは、進撃の巨人でしょうか。これが3巻でこっちは4巻?」
書店員さんはベテラン鑑定士みたいに指先で眼鏡を持ち上げます。
「はい。たしかに。進撃の巨人です。3巻と4巻でございます」
「間違いない?」
「はい。間違いなく」
「そう。ではこの二冊をくださいな」
なんじゃそりゃ。
私など最初からいなかったみたいに女性はつうとお店の外へ。
これも何かの縁、でしょうか。
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