蜜月のころ、パパの朝食は半熟の目玉焼きとトーストとレモンティ、
トーストにはママの手作りジャムをたっぷりのせて、
毎朝パパはそれを、さくさくさく、じゃなかった、ざくざく、でもない。ん? かりかり?
忘れてしまいました。
とにかくママは、パパのジャムトーストを齧る音が大好きだったのだそうです。
ママとパパが熱烈に愛し合っていた、と思われるころの話です。
私が学校を卒業し仕事を見つけて家を出ると、ふたりは離婚。
ママは家にひとりぼっち。パパは隠れるように伊豆へ逃げてゆきました。
私はときどきママがしてくれたトーストの話を思い出します。
いつだったか、伊豆へ遊びに行ったときにパパにそのことを話すと
「パパは、ママの苺ジャムが、アレが嫌だったなあ」
パパは少し身震いしながらそう言います。ママには幸せの音だったのに。
「マーマレードも嫌いだった?」
「いや、苺ジャム。ある日会社から帰るとママが歌を唄いながらジャムを煮てた。苺ジャムを。嫌だ嫌だ嫌だ。苺ジャムをトーストにのせる毎日。嫌だ嫌だ嫌だ。こんなママも、嫌だ嫌だ嫌だ」
「それって酷くない? たかが苺ジャムでしょう」
私が詰め寄ると、
「だって苺ジャムだからねえ、アレが嫌だったなあ」
パパは記憶のなかの苺ジャムを吐き出すみたいに繰り返し呟くのでした。
つくづく、夫婦って恐いと思います。
だから私は結婚をしません。
小町の妻様、母様、見えない皹が見えませんか?
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