夜中に歯を磨いていたら、
突然、(そうかね)と頷く声を聞いた気がして
鏡に映る自分の肩越しに、後ろを睨みつけたのですが、
もちろん、そこには誰もいなくて
開いた扉と湿ったお風呂場、それに半開きの小窓が見えるだけ。
歯ブラシを握る鏡の私も、口のなかを泡だらけにしながら
あんがい暢気にしています。
夜中に歯を磨くといつも目眩がするので、
いまの(そうかね)は
幻聴か、記憶のなかの声?
とかって片付けちゃいたかったのに。
「そうかね」
今度ははっきりとお年寄りの声が言いました。
声はお風呂場の小窓のほうから聞こえてきます。
ギョッとして振り返ると、
窓の外に何ものかの気配が。
誰かいる!
だって、すりガラスに影が映ってるよ、頭のかたち!
小窓の外はマンションの共有通路になっています。
どこかの爺さんが、すぐそこで誰かと話し込んでいるのか、
あるいは携帯の相手と?
「そうかね」
ほらまた。
なんだよ、どっか行け。
「そうかね」
そうだって! 警察呼ぶよ。
(そうかね…)
声はだんだん小さくなってゆき、窓の影はすっと掻き消えて。
でも、耳を澄ましても、遠ざかる靴音は聞こえず。
なんだったんだ、いまのは?
なんだったのでしょう。
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