もう何年も前、
スイスの登山列車に乗った時のことです。
私たち夫婦の隣に、イギリス人のおばあさん(80近いと思われる)と、その孫のお嬢さん(20代前半)が乗っていました。
おばあさんは、年季の入った登山靴からもベテラン登山者だとわかりました。
耳に入ってくる会話から、お孫さんも山登りが大好きなようでした。
鼻筋の通ったおばあさんと美しいお孫さんが、
中からキャラメルがたらりとなったスナック菓子を
「あらあら」と言いながら微笑み合っている光景は、とても微笑ましかったです。
列車が到着し、私たちが降りた直後、後ろで悲鳴がしました。
乗降口でおばあさんが転倒し、顔面をどこかに打ち付けたようです。
鼻の頭から血が噴き出していました。
主人はすぐに持っていた絆創膏を手渡しました。
おばあさんは「情けない。登山前に情けない」とぽろぽろ涙を流してその場にうずくまりました。
お孫さんの冷静な対応を、私は今でも覚えています。
「おばあちゃん、大丈夫よ。私がついているから。
山登りがだめになったって平気よ。
おばあちゃんといられるだけでも嬉しいの。
これから病院へ行きましょう。
片時も離れないわ。手を握っているから。
痛いでしょう。でも、これくらいで済んでよかったわ!
私がついているからね。大丈夫よ、おばあちゃん」
近くにいた私さえ、心が落ち着くような介助でした。
次の日の夕方、偶然にも、その二人と山道ですれ違ったのです。
顔の中心に大きな白いガーゼを貼ったおばあさんとお孫さんは、
顔を輝かせてハグしてくれたのですが、
けっこうハードな山なのに、
あれだけの怪我をしても歩けちゃうんだ。
お孫さんと一緒だと、怪我なんか吹っ飛んじゃうんだ。
二人とも悲劇なんかなかったみたいに笑顔になれるんだ。
そんなことが胸を押し寄せてきて、私ひとり大泣きしまいました。
二人とも幸せでいてほしいです。
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