真夜中に、築四十年のマンションの、長く伸びた外廊下から人の話し声が聞こえてきます。
声の主は二人。どちらも年配女性です。
ええ?
そうそう。
ねえ…
ひそひそと話すので二人の会話の全容を聞き取ることはできません。
でも、どうやら、話の主題は「嫌だなと思うこと」
家族の中の誰かや友だち、知人や他人の、こんなところがいかにイヤかを評価し合っているみたいです。
部屋の隅で、私は布団にもぐり聞き耳を立てます。話の細部を理解しようと、持てる神経の全てを二人の会話に集中します。耳だけでなく、閉じた目の裏や肌の表面で、二人の会話を吸い取るみたいにします。真夜中ですので、なぜだかそれができてしまうのです。
さらに絞られる二人の声音。でも、二人の姿がこのときの私には見えてしまいます。
片方のひとりが指先をちょんちょんとやって指し示したのは、外廊下に面した私の部屋の窓でした。
唇だけを動かして、「○○さんとこの○○ちゃん…」
私のことだ。しかもちゃん付け。私が何だというのだろう。
そのときでした。
隣の部屋の襖を引く音。母親でしょうか。トイレへ?
途端に外の声が遠くなりました。
…。
……、
…。
あ、ここ肝心なとこ。ダメだ。聞こえない。あ、あ…
という夢を見ます。何度も同じような夢を見ます。
ただ、廊下のふたりはその時時。人だったり、カラスだったり、鬼だったり。
数週間前から、事情があって実家に戻り、この部屋で寝泊りしています。
子供の頃もこの部屋で寝起きをしていました。その頃からこのような夢を見ていました。
しかし当時はそれを夢とは認識できず、母親に泣いて訴えたこともあったほど。
これは本当に夢なのでしょうか。何かの呪いでしょうか。
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