父さんへ
貴方が死んでもう15年、僕は今でも詫び切れない思いがあります。
僕が医師となり実家近くで勤務するようになった頃に、父さんは事故で即死したよね。急報を聞いた僕は、父さんを惜しみ悲しむ気持ちと共に、心のどこかでホッとしていました。
それは父さんには、僕の同僚に知られたくない秘密があったからです。秘密とは、父さんの背中の大きな昇り龍の「刺青」でした。
病気になり僕の病院を受診した父さんが、ヤクザまがいの刺青持ちだと知られることが、僕には嫌で悪夢にさえ思えていました。そんなことを考えていた矢先の事故でした。
葬儀で沈痛な表情は見せながら、これで良かったと考えている不遜な自分がいました。
しかし、葬儀後の火葬場で僕が見たのは、生前の体を彷彿とさせる、父さんの立派な骨だった。
それを見たときに、心の中の何かが弾けて、涙がとめどもなく溢れてきた。
「ごめんな、折角医者になったのに、点滴一本入れてあげられなくて・・」「父の刺青を恥じた卑劣で情け知らずの息子を堪忍してください・・」
借家住まいの貧しい工員として、必死に育ててくれた父さんに、僕は何も報いるものがなかった。それどころか、自分の体裁のために、刺青を持つ父を恥じるような情けない男になっていました。
骨を見て、初めて僕は自分の愚かさを思い知りました。子は親の背中を見て育つというけれど、父さんの骨は、僕が人として何を大切にしないといけないのか、無言で諭してくれたような気がします。
父さんの死以後、医者としてどれだけのことができているのか、甚だ心もとないけど、弱者の味方でありたいといつも思っています。僕にそんな生き方ができたかどうかは、あの世で父さんに「どうでしたか?」と聞くつもりです。貴方に駄目出しされるような情けない生き方だけはしないでおこう。無骨で不器用で真面目な父さんを、僕は心から誇りに思います。
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